格下げのスパイラル
1997.12.07(日)
世間には「格付会社」というものがある。新聞報道などでは「格付機関」という表現をしているものが多いが、私は「機関」という表現に疑問を持っている。彼らは純粋に利潤動機に基づいた営利会社なのだから、なにも「機関」などという表現を使う必要は無い。
日本では日本格付研究所など複数企業が、格付けを発表している。また世界的には、アメリカのムーディーズとスタンダード&プアーズが大きな影響力を有している。特に後者の米系2社は、最近新聞や雑誌で名前を目にする機会が多くなっており、その名前を知っているという方も多いだろう。ちなみに機関投資家などの間では、米系2社と比べると、日本の格付会社は評価が甘いという声があるそうだ。
彼らの仕事はと言うと、企業の債務返済能力を長期的および短期的にランク付けすることだ。
社債を買うということは、その発行会社へ無担保で融資しているのと同じことだ。このため投資家の側から、その社債の返済確実性を第三者が評価するというニーズが生じる。そのニーズに応えるのが格付会社の仕事である。実際は、社債に限らず、与信行為に対する返済確実性の目安として使われるため、社債を発行していない企業についても、格付けが行われている。また、たとえ企業が格付けを依頼していなくても、格付会社が勝手に格付けを行い、それを発表することすら有る。これは「勝手格付け」と呼ばれているが、格付けを行われた企業にしてみると、この格付けも金融市場に影響力を及ぼすがゆえ、無視し得ないものである。
企業は手数料を払って格付けを依頼しているわけだが、格付会社が手心を加えて、敢えて甘い格付けを行うことは無いと思う。もし甘い格付けを行った企業が急に倒産するようなことがあると、その格付け能力が疑われて、格付会社が金融市場への影響力を失ってしまう。これは、その格付会社の存在基盤を脅かし、衰弱死をもたらす。そのため、格付け依頼企業からどんな圧力がかかろうと、格付会社は自分自身の理念に基づき、できるだけ実態を表した格付けを行おうとする。
良い格付けを取得できると、より有利な条件で資金を調達できるため、企業の資金調達コストは低くなる。これに対し、格付けが下がると、その企業の資金調達コストは高くなる。高くなるだけなら良いのだが、資金調達そのものが出来なくなる場合も出てくる。すると当然、企業の財務体質は一層弱くなる。その結果、また格付けが下がる。格下げと財務体質弱化の悪循環が、企業の業績悪化を加速する構図(格下げのスパイラル)ができあがっているのだ。つい最近では、破綻直前の山一證券が、格下げによって大きなダメージを受けたことが記憶に新しい。こと金融面、財務面に限って言えば、「格付け」は企業業績の二極分化を加速する仕組みである。
「格付け」に対して企業経営者が心せねばならないことは三つある。一つは格付けを悪化させないこと。もう一つは、格付けを悪化させるような企業行動を選択する場合に、格下げによる業績悪化の悪循環を加速しない程度の行動にとどめること、そしてもう一つは、格下げによる悪循環の加速が予測される場合には、格上げに向けての確実な対策を講ずることである。特に最後の項目は、企業の危機管理として重要だ。格付け対策は小出しではいけない。孫子の兵法でも、兵力の逐次投入は愚行として戒められている。やるときは、やれることをやれるだけ、きっちりやること。
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